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Instagramにあふれる可愛らしく、優しい色合いの、懐かしいような、でもちょっと感じの違う和菓子。この和菓子を作ったのは和菓子ユニット「ユイミコ」。

『道具なしでつくる かわいい和菓子』というレシピ集も出されている、小坂歩美(こさかあゆみ)さんと大森慶子(おおもりけいこ)さんのお二人の和菓子ユニットです。

てならい堂でも、このお二人の和菓子ワークショップを開催して3年目となります。

今回は巣鴨にオープンしたばかりというスタジオにお邪魔させていただきました。

ワークショップは、少しの量で、少ない道具と、簡単に買える材料で

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お二人の活動は2008年から。和菓子の敷居を低くして、もっと生活の中に取り込んでもらえたらと、少ない道具と、シンプルなレシピで、和菓子ワークショップを開催しています。

最初は北鎌倉の古民家で月に1回、「こっちが2人で生徒さんが1人ということもありました」が、今ではキャンセル待ちの「予約の取れない和菓子教室」と取り上げられるまでの人気です。

教室はどんな特徴があるのでしょうか。

「まずわたしたちが見本を見せるんですが、先生と生徒というより共同作業に近い感じですね」と小坂さん。

「その季節の練りきりが必ずあるというのはわたしたちの特色かもしれませんね。練りきりのレシピは変わらないのですが、細工が毎回異なります。」と大森さん。

「練りきり」というのは、つなぎとなる素材(大和芋や求肥など)をあんに練り混ぜて作り、さまざまな形に細工する和菓子。ねんど遊びのように童心に帰ってしまう人も多いとか。

「リピーターさんに同じ和菓子が被らないように」と工夫を重ねるうちレシピは160種類を超えてしまったそう。生徒さんは30~40代の女性が多いそうですが、最近は男性の姿もあるそうです。

手を動かして作る和菓子の世界へ

「日本の文化を好きなもので広めていける仕事」と和菓子の道に入ったという小坂さん。

「デザインの勉強をしていたのですが、人に作ってもらう世界は向いてないなあと思って、考えたものを自分の手で作れる和菓子っていいなあと思いました」という大森さん。

お二人は製菓学校の同級生。卒業後はそれぞれの和菓子店へ就職。

そしてその後「別の切り口があってもいいのかな?」と、和菓子のワークショップ活動へ。

「生徒さんの突拍子もない発想や、もっと簡単にという要求が刺激になります」と大森さん。

「和菓子という世界の中だけではなく、外の一般の人の感覚と通じていることが、和菓子を広めていくということとリンクしている実感があります」と小坂さん。

初めて見る・初めてやってみる和菓子づくり

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この日お二人はスタジオで「じょうよまんじゅう」を作りながらのインタビューでした。

じょうよ(薯蕷)とは大和芋などの芋のこと。使う芋によって生地の状態が変わりやすいとのことで、家庭では難易度はやや高め。初めて目の前で見る和菓子作り。

大和芋はスプーンで皮を削ぎ、薬味を下ろすおろし金を使います。細かい目で下ろさないと肌理が粗くでてしまうからなのだそう。とろろになった大和芋に砂糖、そして上用粉を加えると、しっとりした生地になりました。それをちぎって、丸く伸ばして、あんを包んでいきます。この「包む」作業を実際に体験させていただきました。

「左手に生地をのせて、その上にあんを置きます。右手はあんを軽く押さえて、下になっている左手の手のひらで生地を押し上げるようにして包んでください。」と説明してくださる小坂さん。包む時に、利き手である右手の仕事がただ押さえるだけなんてびっくり。

それでも「こういう時に手に粉をつけるのかな」「ああやって押し上げるんだ」と、見よう見真似で格闘していたら、なんとか形になるから不思議です。

疑問にすぐに答えが返ってくることと、疑問になる前に感覚的に収集できる情報が多いことも、やる気を刺激します。

さらに「あ、上手」と持ち上げてくださる大森さん。もちろんお二人の周到な準備とレシピ、そして経験があってこそ、和菓子の形になっていくのですが。

そして蓋を手ぬぐいでくるんだ蒸し器で蒸しあげて完成かと思いきや、冷ました後に、一つずつお持ち帰り用の容器に手際よく詰めて、お土産にしていただくきめ細かいご配慮。

どんな和菓子が「ユイミコ」ですか?

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お二人はどんなルールのもとに和菓子を作っているのでしょうか。

小坂さん「昔からある図案や形が十分素敵なものが多いので、その良さを伝えながら、色あいだったり、アレンジしすぎないところで、自分達らしさを出していけたらと思います」

大森さん「生活に取り入れやすい、わかりやすいものをテーマにしています。数グラムにこだわらなくても出来上がるように、レシピをシンプルにと努めています。」

ユイミコの和菓子は、どちらが考案したものか、見た目にはわからないと思うというお二人。

「お互い性格は違うけれど、お菓子は似ている。不思議だなあと思います。
   それはないって思うものは同じです。」

それぞれにやりたいと思うことをやるのが、いい流れに繋がっているようだと話すお二人。

二人で一緒にこだわるより、和菓子を広めていくというテーマで、お店ではできないことを、決め過ぎず、いろいろな方向性で形にしていきたいと考えているそうです。

例えばITに強い大森さんは、SNSを使った発信や、WEBサイトの更新、オンラインショップでの道具販売を担当、コラムの連載などは小坂さんが担当。イベントへの参加や注文菓子の要望には二人で対応というように。

そして「愛でる」時間へ

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お話を伺った翌日、お土産にいただいた「じょうよまんじゅう」をいただきました。

生徒さんの多くが大事に持って帰るというのもよくわかります。和菓子を大事に取り扱う「愛でる」気持ち。そして食べてみると、しっとりとして、さっぱりした上品な甘みでした。

「優しい味」と言うのは簡単ですが、シンプルな材料で、肩肘張らずに作ったことが、和菓子にきちんと表れています。和菓子は五感を働かせる食べ物という言われ方をしますが、まさに味覚で締めたという感じ。

「余白」のあるものづくり

そんなことを考えていると、ユイミコの和菓子というのは、可愛らしさやカジュアルさはさることながら、「余白」が含まれている世界なのではないかと思い当りました。

お抹茶と一緒にとか、塗りの器の上でとか、そういうイメージから自由なばかりでなく、その世界に触れた人に委ねられる余地がきちんと残されている、そんな印象を受けました。実際にお二人と作業をしてみると、和菓子の可愛らしさや、お二人の気負わないスタンスから想像するような「緩さ」のようなものと対極の空気がありました。

交わされる会話が短く、的確で、空振りがない感じ。職人さんっぽい。

周到に引き算がされていて、ここから安心して入れますよと言われているようです。

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和菓子職人というのは、女性が少ない世界なのだそう。

「こだわりをもって、同じものを、たくさん、スピーディーに作るという要求に応えるのが職人さん」

「当時は習得にいっぱいいっぱいだったので、今改めて自分で研究したりアレンジしたりすると職人さんってすごいなあと思います」とお二人。明日職人に戻れと言われたら戦力にならないねと笑い合いながら、和菓子屋さんに足を運んでもらえる和菓子環境をつくることも、自分達をはぐくんでくれた世界への恩返しとも話してくださいました。

 

文 / 斎藤萌子
さいとうもえこ。日大芸術学部演劇科卒。埼玉のご当地ライター。ワークショップデザイナー。音訳者。 アートや演劇を通じた地域活性をテーマに活動中。趣味は旅先で猫の写真を撮ること。