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 東京西部、多摩地方。八王子駅からバスで10分ほど、大通り沿いにある大型家具店の敷地内に木工家、伊藤洋平さんの工房はあります。年季の入ったログハウス風の建物は、以前モデルハウスだったそうです。この建物は伊藤さんが運営する木工塾(八王子現代家具工芸学校)の校舎も兼ねています。木のいい香りに包まれた室内には、生徒さんたちの木工作品がここかしこに置かれ、木工好きの女子としては入った瞬間からわくわくしました。

 伊藤さんは“木工家”というより“活動家”と呼ぶのがふさわしいほど、多方面で木工の普及活動に力を入れています。自らの作品を携えて、展示会に出展するだけでなく、大学の非常勤講師、多摩産材を使った家具作りプロジェクトへの参加、さらには親子向けのワークショップを開催したり、多忙な毎日を過ごされています。こうした幅広い活動を行う背景には伊藤さんの「木工という裾野を広げたい」という強い思いがあるのだと、お話をうかがって感じました。

 現在は八王子に自宅も構える伊藤さんですが、出身は東京の世田谷区。小さいころから勉強より体を動かすことの方が好きで、高校生まではサッカー少年だったそうです。そんな伊藤さんが木工という仕事に興味を持つようになったのは、高校生のとき。実家の向かいに引っ越してきた家具職人に、実家をリフォームしてもらったのがきっかけでした。

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「近所なのでときどき遊びに行って、ちょっとした木工を教えてもらったりするうちに、家具を作るという仕事に興味がわいてきました。両親からは大学に行くように言われていましたが、ぼくは体や手を動かすほうが好きだったので進学はせず、その職人さんの下で働くつもりでいたんです」

 ところが、伊藤さんが高校を卒業してしばらくすると、その職人さんは病に倒れてしまいます。「そこで働くことができなくなって初めて、どうやったら家具の仕事で食えるようになるのか、本気で考えるようになった」という伊藤さん。木工を教えてくれる学校を本や雑誌で調べ、実際に足を運んで話を聞いてまわったそうで、その行動力は見習いたいですよね。
「当時はインターネットもありませんから、気になった場所や人があれば電話をかけ、出向くようにしました。そんな中で晩年の秋岡芳夫さん(※)にも木工塾の見学の際にお会いすることができました。いま思うと幸運でしたね」
 
 さまざまな選択肢を検討する中で、最終的にイギリスで木工を学ぶことを決めたのは「イギリス留学という形なら、両親が納得してくれたため(笑)」と伊藤さん。「6年半、イギリスの木工専門学校で家具作りを学びました。日本だと職人として、厳しい上下関係や師弟制度の中で学ぶしかありませんが、イギリスにはもっといつでも気軽に学べる家具学校が各地にありました。そのイギリスの学校で先生と対等な形で木工を学べたのは結果的によかったと思います」イギリスも日本同様に、木工品を愛する国民性があると聞いていますが、木工に関する裾野の広さも影響しているのかもしれないと思いました。

 帰国後は、工務店で大工として働いた後、偶然見つけた新聞の求人欄を通じて日本工学院八王子学校の非常勤講師に就任。さらに飛騨の専門学校からも講師の声がかかります。次第に伊藤さんの中で「イギリスのようにオープンな形で木工を学べる学校を作りたい」という思いが募っていき、やがて「八王子現代家具工芸学校」の開設につながっていきます。

 伊藤さんがとても気さくで話しやすい方なのは、イギリスでの生活というバックグラウンドを持っているからなのかなと感じました。次回は伊藤さんの活動拠点である八王子に対する思いとワークショップの概要をお伝えします。

)今回のバターナイフ作りワークショップの会場となる「モノ・モノ」の創設者。

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文・写真(宝樹恵/グループモノ・モノ)

(プロフィール)
いとうようへい◎1975年東京都生まれ。イギリスのライコットウッドカレッジとウルバーハンプトン大学の家具デザイン科にて約6年半、家具作りを学ぶ。帰国後、伊藤家具デザインを設立。2004年より日本工学院八王子専門学校プロダクトデザイン科、2008~2010年まで飛騨国際工芸学園にて非常勤講師を務める。2010年に八王子現代家具工芸学校を開校。