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こんにちは。てならい堂スタッフのリムです。きれいな雲を見る昼も、暗くなるとだんだん姿を現す月を見つめる夜もとても楽しい秋です。皆さんこの素晴らしい季節は楽しく過ごしていますか?

今日は少し個人的なお話をしたいなと思います。私はてならい堂のスタッフでもありつつ、美大生でもあります。普段は学生として学校に通いながら作品を作り、発表することもあります。主に用いる素材は紙で、自分で漉いた和紙を用いた立体作品を作っています。(てならい堂でこの夏、紙漉きワークショップの講師として勤めさせていただいたこともありました!)

10月に入ってから私はアーティストインレジデンス(滞在しながら制作活動ができるように芸術作家を支援する事業)というプログラムで埼玉の小川町という町に来で制作をしています。埼玉の小川町は昔ながら「細川紙」という、「本美濃紙(岐阜)」、「石州和紙(島根)」とともにユネスコ無形文化遺産に登録されたとても素晴らしい紙が作られる町です。小川町には「紙漉き体験学習センター」という、職人を育成する研修が行われる場がありますが、現在私はそこの一角をアトリエとして使わせていただいています。

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小川町に来た週、4日間紙漉き体験学習センターの職人さんに植物の楮(こうぞ)が紙になるまでの一通りを習いました。たった4日だけの短い時間でしたけれど、紙作りがどれくらい手間がかかる作業なのかがよくわかる経験でした(もちろん沢山勉強になりましたし、とても楽しかったです!)。

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これまだは高知産楮を使ってきたけれど、何年前から小川町も独自で楮をs育ち始めたそうです。3mくらいまで高く伸びた楮の枝がたくさんありました。

とりあえず、簡単に楮が紙になるまでの流れを書いてみますね。和紙はまず楮を育てることから始まります。ある程度成長した楮(基本1年~3年くらい経ったもの)を11月から1月の間に90cmくらいの長さで切って、一回蒸して皮を剥いて、茶色い外側の皮を削って、全体的に緑の色になるようにきれいにします。小川町ではここでさらに削って、緑色が白い色になるまで(白皮と言います)削って作る場合もあります。その後は水にソーダ灰を加え2時間ほど煮ます。そうすることでいらない成分やゴミなどが原料から出されます。

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麺ではありません。

煮た後取り出した柔らかくなった楮を水につけて晒した後に、皮を削って残っていたゴミをとる‘ちりとり’という作業を行います(これが一番大変でした…)。削る時に茶色いところや芽の方をちゃんとなくしたつもりなのに意外とあちこちに残っていたゴミを目で見て、いちいち取るのはすぐ目が疲れてしまうので、集中力の要る作業でした。

でも終えてきれいになった楮の皮を見るとすぐ疲れが吹き飛びました!気持ちいいですね。よしよしと自分を褒めてあげないといけないところです。

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永遠に終わらないと思ったちりとり作業がやっと終わったら軽く原料を絞って水気をとってひたすら叩きます。木の棒で手打ちすることもありますが、最近は打解機を使って叩くことが多い様です。圧倒的に早く満遍なく叩けるので便利ですね。すごくうるさい音を出す機械なので、隣にいる職人さんの声が聞こえないくらいでした。30分ほど叩くといい感じになりますので、打解機から原料を取り出し、次はなぎなたビーターに原料を入れて回し、繊維同士が絡まないようにほぐします。これもあまりビーターを回し過ぎると今度は繊維が短くなり逆に繊維同士が絡んできますので、適度が大事です。

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トロロアオイの根っこです。これを石の上で叩いてねばねばした液体をとることができます。

そうするとやっと紙が漉ける状態になります。水に原料を入れ、トロロアオイというネバネバする液体を入れ漉きやすい状態にします。トロロアオイを入れることで水に楮の繊維が均等に混ざることができ、全体が均一な一枚の和紙が作れるので和紙作りにトロロアオイは欠かせない存在です。

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全体的に水に原料がよく混ざったら簾桁(すけた)で紙を漉きます。「え?これで終わりなの?」となると思いますが、実は紙を漉くのは本当に一瞬で終わる作業で、その先に原料を漉けるように加工する過程がずっと長いです。この4日コース体験のおかげで、加工する段階できちんとしておかないと良い品質の紙が作れないので適当に済ましてはいけないということがよく理解できました。

これまで色んな産地で和紙が作られる様子は見ていたつもりでしたが、自分で一通り全部体験させてもらったのは初めてでとても勉強になりました。地道な作業ばかりやり続け、極めてきた職人さんたちをみて、やはりすごいなと思ってしまいました。

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できた紙はまだ濡れていますので絞って水気を出し、一枚ずつはがし、木の板や熱がでる鉄板などに貼り付け乾燥させます。そうしたら本当に完成です!

職人さんたちが常に自分の感覚に従って作業を進めたり、判断するように見えてその姿を身近で見ることができたのが今回の一番大きい収穫でした。例えば楮を釜に入れて煮る時に水が出すぶくぶくする音を聞いて「もうちょっとですね」と言ったり、水に原料とトトロアオイを入れた後に、ちゃぷちゃぷする水の音を聞いてトロロアオイや水の量を調整する能力は、きっときれいな紙ができた時に聞いた水の音や楮の色、感触、香りなど、五感を通じて捕まえたのでしょう。長い時間をかけて捕まえた全ての感覚がどのように紙作りに作用しているのかが鮮明に見えて一人で感動しました。

 

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もう一つ、身近で紙漉きの職人さんたちが働いている姿をずっとみて、「今の時代の職人さんたちは機械をうまく使うな」と思いました。なんでも考えずに機械に依存するのではなくて、必要な時、適度に機械の力を借りる。あくまでも機械は人が使うために作った道具ですから、道具に圧倒されない程度で使ってる姿にまた感動してしまいました。

さて、今日もここで得た色んな気づきを大切にし、制作を続けます!

皆さん、今日も素敵な1日を!